1960年代より、美術、映画、文学と多彩な活動を続け、2020年9月に82歳で永眠した”アングラの巨匠”岡部道男。近年は独自の美学に貫かれた映画作品が海外で再評価され、映画祭で熱狂的な支持を受けている。
本特集では、岡部の全作品をデジタルリマスター版で一挙公開。映画に登場する、ゼロ次元、告陰、おおえまさのりの貴重な映像作品も同時上映する。
様々なアートがジャンルを超えて融合した、60年代アンダーグラウンドの熱狂を、時代を超えて、今、体感せよ!
東京と浜松では、ポスト・アンダーグラウンドの映像作家・中村雅信も特別上映。
1937年9月28日生まれ。1960 年代初期より美術家として活動を始め、ネオダダなどの前衛芸術家たちと交流しながら独自の美術作品を発表。’67年には、アメリカのアンダーグラウンド映画に大きな影響を受け、映画製作を開始。70年代後半までに6本の16mmと1本の8mm映画を制作した。スーザン・ソンタグが“キャンプ”と呼んだ独特の美意識を独自の解釈で昇華したその作品は、唯一無比のアンダーグラウンドな世界を作り出している。映画と並行して、ラジオドラマや小説の分野でも活躍。ノスタルジーと怪奇幻想が入り混じる幻想小説を発表した。
近年には海外で映画が再評価。長編『クレイジーラヴ』は世界の映画祭で多数上映されている。2020年9月13日82歳で永眠。2020年11月には米国でネット配信による追悼上映が行われた。
『天地創造説』1967/26分/白黒/デジタル(16mm)
ケネス・アンガーの『スコルピオ・ライジング』に刺激を受けて作り上げた、記念すべき映画デビュー作。岡部の美術作品が登場し、ターザン、丹下左膳、ジャンゴなど、偏愛する映画の主役たちを自ら演じる究極の個人映画。CMからアートまで、時代の文化を詰め込んだポップでアヴァンギャルドなスタイルが秀逸。草月実験映画祭奨励賞受賞。
『クレイジーラヴ』1968年/97分/カラー/デジタル(16mm)
アングラブームに沸く1968年の新宿を、その渦中からドキュメントした異色の超大作。ゼロ次元、末永蒼生、刀根康尚、安土ガリバー、佐藤重臣、宮井陸郎などアングラ・シーンのスターが続々登場、フーテンたちがサイケデリックな音楽に乗って行進する。映画の文法を無視した自由な語り口と、ホモセクシャルな表現、独特の美意識による斬新な映像は、海外でも熱狂的なファンを生み出している。
『貴夜夢富(キャンプ)』1970年/45分/カラー./デジタル(16mm)
暗黒舞踏の石井満隆が踊り、犬と男たちが交わり、夜警に扮した吸血鬼が若者を襲い、女性が一人も登場しない猥雑な夢幻世界を、固定カメラが額縁のように切り取る。ジャック・スミスの『燃え上がる生物』を想起させる異端の饗宴と岡部独自のノスタルジックな叙情が融合した“和製キャンプ”の金字塔。モントリオール映画祭招待作品
『シロよどこへいく』1970年/20分/白黒/サイレント/デジタル(8mm)
長らく所在が不明で紛失したと思われていたが、2021年に自室の納戸の奥から奇跡的に発見された、岡部道男唯一の8mm作品。愛犬シロの首に8mmカメラをくくりつけ、犬の目線から観た世界を記録。自分でファインダーを覗くことも放棄し、犬に映画を撮らせるというアナーキーさは岡部の真骨頂。
『貴夜夢富(キャンプ)』1970年/45分/カラー./デジタル(16mm)
暗黒舞踏の石井満隆が踊り、犬と男たちが交わり、夜警に扮した吸血鬼が若者を襲い、女性が一人も登場しない猥雑な夢幻世界を、固定カメラが額縁のように切り取る。ジャック・スミスの『燃え上がる生物』を想起させる異端の饗宴と岡部独自のノスタルジックな叙情が融合した“和製キャンプ”の金字塔。モントリオール映画祭招待作品
『少年嗜好』1973年/12分/カラー/デジタル(16mm)
密教寺院の中、少年の頃に還り無邪気に遊ぶ大人の男たち。模型飛行機、紙の蝶々、乗り物、ブリキのおもちゃ…、少年の嗜好する物たちが暗闇から現れる。遠い少年期への夢を、独自の美意識で映像化した短編。クノック・ル・ズート実験映画祭グランプリ受賞。
『歳時記』1973年/68分/カラー/デジタル(16mm)
“四季の移ろいを俳句のように撮る”というコンセプトに基づき、2年の歳月をかけて制作された異色のロードムービー。『さまよえる吸血鬼』『遊行』『孤独の旅路』『はみ出し役者放浪記』の四部から成る男たちの旅は、自然の美しさの中にシュールな別世界を生み出してゆく。アングラ劇団“はみだし劇場”の外波山文明、フォークシンガーの三上寛、ゼロ次元、おおえまさのりなど豪華な出演者にも注目。
『回想録』1977年/22分/デジタル(16mm)
一人の青年が、幼少期の記憶を旅する幻想的な物語。お菓子、かくれんぼ、自然の草花、カタツムリ…。幼少期の感情や欲望の記憶が、形となって次々に現れる。サウンドトラックに使われる童謡や古い日本の歌も不思議な情感を醸し出す。岡部が制作した最後の映画作品。
『回想録』1977年/22分/デジタル(16mm)
一人の青年が、幼少期の記憶を旅する幻想的な物語。お菓子、かくれんぼ、自然の草花、カタツムリ…。幼少期の感情や欲望の記憶が、形となって次々に現れる。サウンドトラックに使われる童謡や古い日本の歌も不思議な情感を醸し出す。岡部が制作した最後の映画作品。
『いなばの白うさぎ』
監督:加藤好弘 1970年(スペシャル・エディション 2017年)/46分/カラー・白黒(2面マルチ)/デジタル(16mm)
photo:©︎ゼロ次元・加藤好弘アーカイヴ
〈ゼロ次元〉を率いた加藤好弘は、撮影に映像作家のおおえまさのりを迎え、その活動の総決算として『いなばの白うさぎ』を制作する。本作で加藤は、新たな時代のヴィジョンを提示するとともに、人間が本来もつエロスの悦びや、封建的な社会を脱する新しい「ファミリー」のあり様をフィルムに定着させている。今回上映されるスペシャル・エディションは、加藤が他界する直前に編集したもので、2面マルチで構成されている。
告陰
監督:末永蒼生 1969年(スペシャルエディション2021年)/10分/白黒(2面マルチ)/サイレント/デジタル(16mm)
『ベトナム反戦・安保粉砕・沖縄闘争勝利・佐藤訪米阻止統一行動』
監督:末永蒼生 1968年/3分/白黒/サイレント/デジタル(16mm)
1966年、「人間性回復の行為」を掲げて出発し、東京の街頭を飛び回った前衛藝術集団〈告陰〉。徹底したアンダーグラウンドからの文化闘争は、凝り固まった政治運動をひっくり返し、状況に「生」そのものの悦びを感化させた。1968年10月20日に行なわれた「ブラックフェスティバル」、その翌日の新宿騒乱、そして闘争の現場にひるがえる〈告陰〉の旗。〈万博破壊共闘派〉結成を前にした、政治と藝術を越境する直接行動の表現が〈告陰〉のフィルムに映し出される。
『GREAT SOCIETY』1967年/17分/パートカラー/デジタル(16mm)
おおえまさのりは1965 年にニューヨークに渡り、当時のサイケデリック革命を体験。実験的な映画制作を開始した。本作は、アメリカCBSの依頼によって制作した、16mm映写機6台によるマルチ映像作品。ニュース映画と内的ヴィジョンのコラージュによって、アメリカの60年代が描かれる。
『BETWEEN THE FRAME』1967年/10分/カラー/デジタル(16mm)
サイケデリックな内面世界の旅のための環境映画。抽象的な色彩、明滅する光、ダブル8によるマルチ画面などのフラッシュ映像と、ブーンという蛍光灯の安定器の持続ノイズが、瞑想的な効果を作り出す。
『ANOTHER LIFE』1976年/11分/カラー/デジタル(8mm)
『奇病Ⅰ』1977年/3分/カラー/デジタル(16mm)
『北京の秋』1978年/25分/パート・カラー/デジタル(16mm)
『SUMMER IS GONE』1978年/30分/カラー/デジタル(16mm)
『生き埋めにされるフィルム達に・第4部「COLLAGE」』1989年/20分/カラー/デジタル(16mm)
ポスト・アンダーグラウンドの作家として海外でも注目される中村雅信の特別プログラム。
中村は、1969年から97年に制作した47本の作品で、アンダーグラウンドの猥雑さを継承しつつ、よりパーソナルな欲望と美学を追求。フェティッシュでエロティックな視線と巧みな実験的手法で、日常を変容させる唯一無比の個人映画を作り続けた。
代表作『ANOTHER LIFE』『奇病Ⅰ』『SUMMER IS GONE』に加え、アングラ色の強い『北京の秋』と142分の大作『生き埋めにされるフィルム達に』の第4部『COLLAGE』を特別上映。
A.岡部道男『天地創造説』『貴夜夢富』『少年嗜好』(上映時間:97分)
B.岡部道男『クレイジーラヴ』+告陰『幻のブラックフェスティバル 新宿番外地編』ほか(上映時間:100分)
C.岡部道男『歳時記』『回想録』(上映時間:90分)
D.ゼロ次元『いなばの白うさぎ』+おおえまさのり『GREAT SOCIETY』『BETWEEN THE FRAME』+岡部道男『シロよどこへいく』(上映時間:92分)
E.中村雅信『ANOTHER LIFE』ほか5作品(上映時間:89分)※東京、浜松のみ上映